1913年、ドイツで窒素肥料が工業的に合成できるようになり、1930年代には化学合成農薬の生産が本格化しました。
1 近代農業の“ツケ”から「有機栽培」へ/有機栽培とは/有機JASマーク付き「有機農産物」/有機農産物の品質とおいしさ |
2 有機栽培・慣行栽培/近代農業(慣行栽培)と有機農業は、何が違うのか
1913年、ドイツで窒素肥料が工業的に合成できるようになり、1930年代には化学合成農薬の生産が本格化しました。化学肥料や農薬の使用、作物の品種改良、農作業の機械化が進んだことも手伝って、ヨーロッパから始まった近代農業は、作物の収量を飛躍的に向上させました。そして、1970〜1980年代には化学肥料や農薬の使用が激増し、戦後の日本や開発途上国の農業をも近代化させました。しかし同時に、環境破壊や人の健康に甚大な悪影響を及ぼす硝酸塩汚染など、無視できない深刻な問題が顕著になったのです。化学肥料や農薬の恩恵に支えられた食糧生産ですが、その代償は大きく、「持続可能な農業」や「安全な食糧生産」を可能にする方法として、再び「有機栽培」に光が当たりました。
有機栽培では、有機質肥料(堆肥や米ぬかなど)を使用したり、腐植や微生物の働きでつくられる土壌の団粒構造により、作物が養水分を欲しい時に必要な量を与えられる、豊かな「土づくり」を大切にしています。作物を強くおいしく育て、化学肥料や農薬の使用で環境を破壊しない、持続可能な栽培方法です。
「有機農産物」は、日本農林規格で「生産の原則、生産方法の基準、名称の表示方法」が決められています。生産方法の基準では、「堆肥などによる土づくりを行い、種蒔き・苗を植える前2年以上、栽培中に(果樹や茶などの多年生作物の場合は収穫前3年以上)、化学肥料・化学合成農薬を基本的に使用しないこと。遺伝子組換え種苗は使用しないこと。」と、厳しく定められています。ただし、作物に緊急で重大な危険がある場合は、有機JAS 規格でリストアップされている昔ながらの安全性の高い農薬や、微生物製剤などの比較的安全なものを一時的に使用できることになっています。
食品の安全性を求める消費者が増えるにつれ、「有機」、「減農薬」などの表示が氾濫していた時期がありまし
たが、平成13年4月から、有機JAS規格を満たした農産物には認定事業者により格付の表示(有機JASマーク:図1)が付けられ、「有機」や「オーガニック」に似た紛らわしい表示はできないようになりました。
有機農産物や、有機畜産物を95%以上原材料に使用した加工食品は、「有機加工食品」という「有機食品」として扱われています。
ポイント1
水分:有機栽培を行っている畑の土壌には、微生物の働きによって団粒構造ができています。団粒構造ができていると、土壌の保水性がよくなると同時に、余分な水分が排出されます。作物は十分な水を求めて根を発達させ、一本一本の根の吸水力を高めて強くたくましく育ちます。根から養水分をたっぷりと吸収できるようになった作物はおいしくなります。
ポイント2
養分:有機栽培は、じっくりと養分を供給する堆肥などを使うため、土壌には比較的広く薄く養分があります。作物はそれを吸収しようと、たくさん根を張ります。そして、根から地上部まで、体全体の浸透圧を高めて養分を吸い上げようとして、体の中に糖分を蓄えるので、作物は甘くなります。また、化学肥料よりも豊富なアミノ酸が含まれたアミノ酸肥料を使用すると、豊富な養分の一部はそのまま甘みや旨味に変換されるので、作物はおいしくなります。
水分と養分をたっぷり吸収できるようになった作物は、光合成もさかんになります。そうしてビタミンCが多くつくられ、細胞は密に形成されて、日持ちの良い作物になります。また、化学肥料の成分である硝酸態窒素は、与えた分だけどんどん作物が吸収してしまい、不自然な苦味やエグミの原因になります。
有機質肥料に含まれる硝酸態窒素は、作物が必要な時に必要な分だけじっくりと吸収できるため、作物本来の自然な味に育ちます。